鎖でつながれた本


本の各部の名称の中に、奇妙な部分がある。
それは、「前小口」のことだ。
「前小口」とは、有限会社イフのホームページ内の「印刷・製本辞典」によれば

まえこぐち (前小口) fore-edge/front

仕上げ断ちした本の綴じ目と反対側の切り口。単に「小口」という。→本の部分名

http://www.if-j.co.jp/web/yougo/yougo.html
http://www.if-j.co.jp/web/yougo/jpg/honbubun.jpg


要するに、本の「背」の反対側、読む側のことである。
通常、本棚に入れる時、向こう側になる部分といってもいい。
しかし、なぜ、こちら側が「前」なのだろう?


ヘンリー・ペトロスキーの「本棚の歴史」は、このことを解明した興味深い本である。


結論から言おう。

本箱に入れる際に向こう側になる部分は「前小口」と呼ばれる。現在では、逆説的に聞こえるが、これが正しい名称である。というのは、長いあいだ、こちら側が前面で、外を向くように置かれていたからだ。最後に、今の時代に本がびっしり入った本棚を眺めたとき、目に入ってくる部分が「背」である。何世紀にもわたって、本は背が内側を向くように入れられてきた。(23p)


文章がわかりにくいが、要は本を本棚にしまう時、ヨーロッパ中世以来何世紀もの間、「前小口」が見えるように収納してきたというのである。
だから、こちらに「前」frontという言葉が、いまも残っている。


なぜ、そんなことがあったのか? 
では、いつから、「背」を見せるように本を収納するようになったのか?


それを解明するには、かつてヨーロッパでは、修道院・図書館などで、本が「鎖」につながれた状態で保存され、読まれていたことから考えなくてはならない。


中世、写本であった本は、きわめて貴重であり、盗難を避けるため、「鎖」でつながれていた。
もちろん、貴重品であった本自体、各修道院・図書館に収蔵されている数も少なかったわけだ。


本の形態は、「巻物」から「コデックス」と呼ばれる冊子になった時点で、現在の形と大きく変わってはいない。
「鎖」を取り付ける部分は、「前小口」側にしかなかった。
このことが、第一のポイントである。


本棚の歴史