2007-01-01から1年間の記事一覧

世界をリスト化する

「声の文化」の特徴の第一にJ・オングがあげているのは、それが累加的(additive)であるという点である。 16世紀のドゥエー版聖書に、「声の文化」の残存を見ている。 なかなか興味深いので、引用する。 はじめに神は天と地を創造された。[そして]地は形な…

野性の精神は全体化する

相当に刺激的な本である。 私たちが自明に考えている「思考のパターン」やそもそも「思考する」こと自体が、文字あるいは「書くと言う技術」に根ざしていると、「声の文化」との対比の中で明かされて行く。 「書くと言う技術」を持っていることは、かなり特…

後白河法皇

絵巻の読者を考える場合、いうまでもなく時代的変遷を考慮に入れなくてはならない。 その発生期、一〇世紀末といわれている時点では、前回引用した武者小路穣の指摘によれば、『後宮や高位の貴族の邸内奥深くのごく限られたもの』であった。 この時期、『伊…

『信貴山縁起』・読者についての疑問

中世の日本の文学に関して、あるいは美術に関しても、さらには社会史・歴史に関しても、通り一遍の知識しか持っていない。 この稿で覚え書きとして記しておきたいのは、このところ気にかかってしかたない疑問に関してである。 追々解決して行ければといい、…

遍歴する職人たち

実は10日あまり前から、ルネッサンス期の印刷職人を主人公にした、この魅力的な歴史小説「消えた印刷職人」を手に、なにを書こうかと思い悩んでいる。 高宮利行他著の「本と人の歴史事典」を拾い読みしたり、エズデイルの「西洋の書物」を読み出したりしてい…

アッティクス

岩波文庫版「キケロー書簡集」解説によれば、今日私たちが読むことのできるキケロの書簡のうち、「アッティクス宛書簡集」としてしてまとめられているものは426通におよぶ。 ルネッサンス期にペトラルカが、その発見に尽力したのだが、いずれにせよ紀元前に…

古代ローマの書物事情

WOWOWで放送中の『ローマ』を見ている。 それなりに面白いのだが、見ている自分に古代ローマ史の基礎知識が欠けているのが、よくわかった。幸いなことに、ローマの通史に関しては、私たちは『ローマ人の物語』(塩野七生著)という、わかりやすくしかも面白…

『解体新書』の扉絵

8月末、TBSの『世界遺産』で、『 プランタン−モレトゥスの家屋・工房・博物館複合体』の放送があった。 http://www.tbs.co.jp/heritage/archive/20070826/onair.html 放送内容には、やや不満が残った。 まず、30分の民放の番組で(つまりCMを考慮すれば、30…

福沢屋諭吉誕生

福沢が考えたのは、書林の機能であった「出版業と書籍販売業」のうち、出版業を分化して、福沢の手元で行なってしまうというプランだった。 そのためには、版木師や製本師などと福沢が直に交渉し、その職人を押さえてしまう必要があった。 といっても、福沢…

書林支配形態

福沢は、何が不満だったのか? 江戸時代の書籍商の形態・権利が、現代の感覚では分かりにくい。 書林支配に関しては、前回、引用した。 再度、検討する。 江戸時代の書籍商=書物問屋は販売だけではなく出版をふつう営んだので、かれらのあいだには、権利概…

福沢屋の発端

岩波文庫版「福翁自伝」年譜には、明治二年(1869)の項に 十一月福沢屋諭吉の名で書物問屋に加入し、出版業の自営に着手 (「福翁自伝」 340p) と書かれている。 実際、福沢自身が「福翁自伝」の中で 私が商売に不案内と申しながら、生涯の中で大きな投機…

情報技術とメディア

アイゼンステインの「印刷革命」は、いうまでもなく、重要な著作である。 その中で、著者は、「ルネサンス」と「宗教改革」を中心に、西欧の「近代化」の意味を問い、それに決定的な影響をあたえたのは「印刷」の発明だったことをあかしていく。 まず、ルネ…

粉挽屋について

メノッキオのことを考えていて、粉挽屋という職業の特異性を思った。必要があって、鏡リュウジの魔女入門」を読んでいたのだが、その中の、以下の記述が気にかかったのである。 民間伝承では、粉ひき小屋は悪魔や魔女と関連付けられている。水車の機械仕掛け…

読書のもたらしたもの

カルロ・ギンズブルグの「チーズとうじ虫」は、書物史の文献リストに、必ずといっていいほど記載されている。 私自身は、ギンズブルグのよい読者ではなく、「夜の合戦」も「闇の歴史―サバトの解読」も部屋に積まれているだけである。 すでに、このブログでは…

活字本の増刷方法

個人的なことだが、出版社に勤務して30年になるが、活版の本を作ったことがない。 すでに活版印刷が、事実上滅びている現状を考えれば、これからも作ることはないだろう。 主にグラビア、一時期オフの雑誌を作ることで、糊口の資を得てきた。 活版印刷に関し…

「グーテンベルクへの挽歌」

性格なのか、読みかけた本を途中で放り出すことができない。 実際、読みかけの本は部屋のあちこちに散らばっているし、現実には不可能かもしれないが、いつかは読むつもりである。 しかし、この「グーテンベルクへの挽歌」という本は、読み切るのは無理かも…

auteurとは何か

『万有辞典』は、「文学の分野で『オトゥール』は何か書物を明るみに出した者についていわれる。今日ではそれを印刷させた者に限っていわれる」と明記し、その用例として「この男はとうとう『オトゥール』となり、印刷してもらった」と付け加える。作者とい…

フーコー・シャルチエ

ミッシェル・フーコーの“Qu'est-ce qu'un auteur?”(作者とは何か)と題された論は、難解だが、刺激的だ。 テクストに対する所有制度が制定され、著作権や、作者と刊行者との関係や、復刻・転載権などについて厳密な規則が規定されたとき――つまり十八世紀末…

板木

私見ながら、現代、常識的に考えれば、版元(出版社)が持っている権利は、ある著者の作品を出版するという権利(出版権)だけである。 それは、往々、慣習的に「口約束」で行われる場合もあるが、出版契約に基づいて行われるのが本来である。 しかし、その…

明治初期の増刷から

今田洋三の「江戸の本屋さん」に、福沢諭吉の『学問のすヽめ』(署名表記は引用本に準拠)の印刷事情が述べられている。 明治四年十二月『学問のすヽめ』初版の跋文に「慶応義塾の活字版を以てこれを摺り」世に広めようとするものであるとあるのは、福沢の活…

江戸期の書物はなぜ整版か?

中野三敏・監修の「江戸の出版」を読んでいたのだが、江戸期の出版・印刷の用語さえ忘れてしまっていることに驚いて、書棚から古いNHKブックス「江戸の本屋さん」を出してきて再読していた。 そのうちに、なぜ室町から江戸初期にあった「古活字」を日本は捨…

職業としての印刷

グーテンベルクという人物については、実はよく知られていない。 実際、高宮利行の「グーテンベルクの謎」によれば、 グーテンベルクが生存していた時代に発表された文献で、彼の名前が活版印刷術とからめて言及された例はない。たとえば、ゴットフリート・…

メビウスの輪

いましばらく、長谷川一の「出版と知のメディア論」に則して考えたい。 一般に、書物に関して「形態/内容・メディアとコンテンツ」を二分して考える思考法を多くの人が常識化しているという長谷川は指摘した。 長谷川は、歌田明弘の「本の未来はどうなるか」…