2006-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『浮世床』の「音読」

落語の話から始めたい。 『浮世床』という話がある。 江戸後期とおぼしき時代(おそらく文化文政以降)、髪結床に集っている庶民の滑稽譚が語られる落語である。 その中に、軍記物の本を音読する場面がある。 六代目三遊亭圓生が演じたその場面は、『古典落…

自ら「書物」を作る「作者」

私事を言えば、出版社に勤務し原稿を書くようになったのは、1970年代の後半のことだ。 原稿を書き始めるにあたって一番最初にする作業は、レイアウト用紙に指示された字数・行数通りに、400字詰め原稿用紙に線を引くことであった。 分かりにくいかも知れない…

漱石の「本棚」

紅野謙介は、「書物の近代」の中で、漱石の「書架図」に注目している。 『夏目漱石遺墨集』に収められているこの絵は、紅野よれば以下のようである。 (「書物の近代」93pにモノクロ図版が掲載されている。) 「書架図」はその題が示すとおり書斎の本棚と壁…

「吾輩ハ猫デアル」の価格

樽見博「古本通」は、現在の古本の市場、流通をコンパクトにまとめた興味深い好著だが、その中に気にかかる一文を見つけた。 夏目漱石の『吾輩ハ猫デアル』は、現在紛うことなき国民文学である。しかし、この明治期の豪華な本は、刊行当時三冊で二円七十五銭…

「作者」の完成

モノとしての「書物」とそのテクストと「書いた人」(「作者」)は不可分のものとしてルネッサンス期と活字出版の出現により誕生した。 観念としては、その通りである。 しかし、活字出版の発展は、同時に現象としては、「書物」と「作者」を乖離させる。 お…

「作者」の誕生

現在私たちは、ある作品を書いた人(作者)とそのテクスト(「書」)、完成した「物」を不可分の一連のものとして「書物」を捉えている。 この認識の背景には、作者のオリジナルのテクストと「書物」に書かれたテクストが同一であるという思いがある。 しか…

読者の誕生

22篇のエッセイと小論からなるこの本は、一貫した論考が書かれた研究書ではない。しかし通読すると、ヨーロッパの書物史の流れが、概観できる。 この流れの中で重要なのは、3つのポイントである。 最初に、「音読」から「黙読」への転換・「読者」の出現、 …

このブログについて

四半世紀あまり、雑誌の編集を職業としてきた。主に女性誌を作り、ここ3〜4年は、雑誌社のwebマガジンを作っている。 日々の仕事に追われながら、現在私たちが手にし、私の場合は作り、一方で大量に読む現在の「書物」という形態・性質が、不変のものでは…