活字本の増刷方法


個人的なことだが、出版社に勤務して30年になるが、活版の本を作ったことがない。
すでに活版印刷が、事実上滅びている現状を考えれば、これからも作ることはないだろう。
主にグラビア、一時期オフの雑誌を作ることで、糊口の資を得てきた。
活版印刷に関しての知識は、素人も同然である。



江戸期の古活字本を考えながら、古活字本は印刷の後、開版してしまうため「板」が残らないという中野三敏の発言に引っかかっていた。
「古」活字本以外の、活版印刷は、どのように増刷・重版してきたのか?
重版が、「業として」の出版に収益をもたらす最重要の方法であるのだから、整版から活版への変遷にとって、この問題はポイントになると思われた。


凸版印刷印刷博物館に行く機会があった。
小石川に凸版のビルができた時、お披露目に呼ばれて以来のことである。
そのミュージアムショップで、岩波ジュニア新書「本ができるまで」を買い、疑問が氷解した。
刷版の工程について


部数が少ないものなどは、活字原版をそのまま印刷機に組み付ける原版刷りという方法がとられることがあります。
 これは、活字の姿をもっとも忠実に再現する方法です。しかし、活字は印刷時の圧力ですり減るため、大体四〇〇〇部から五〇〇〇部までが原版刷りの限界といわれています。
                   (「カラー版 本ができるまで」 98p )

古活字本の印刷は、もちろん原版刷りであったはずである。
田中優子の「キリシタン版は一点一五〇〇部印刷できたというが、恐らくそれが活字印刷の限度」という言葉は、すでに引用してきた。
最近の技術で「四〇〇〇〜五〇〇〇部」というのと比較すれば、恐らく妥当な推測であろう。


 原版刷りはむしろ例外的な方法で、通常はここで活字原版を用いた刷版の工程になります。日本の印刷会社で一般的なのは、活字原版から紙型をとり、その紙型に融合した鉛合金を流し込んで鉛版という刷版を作る方法です。という方法がとられることがあります。
 紙型は、水分をふくんだ特殊なやわらかい紙に活字をめりこませた後、熱プレスで乾燥するという方法をとっていました
                  (「カラー版 本ができるまで」 98〜100p )


紙型(しけい)について、より詳しい説明は、ウィキペディアの以下のURLにある。


http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%99%E5%9E%8B


要は、印刷に際し、紙型から刷版を作る。
原版は、開版してしまう。
印刷所はこの紙型を保存しておき、重版時にこの紙型からもう一度、刷版(鉛版)を作り、文字直し等はこの鉛版の「訂正箇所を切り取って正しく組版したものをはめ込む(前掲 ウィキペディアより)」。
この鉛版で、重版を行なうわけだ。


大日本印刷の私より年齢が上の方にうかがったところ、その方の若い頃(30年程度前)は、「紙方」があったという。
岩波の前掲書によれば、


 折ることも重ねることもできない紙型が年々増えていくと、印刷所にとってはこれを保管するスペースを確保することが、大きな負担となっていきました。
                 (「カラー版 本ができるまで」 100〜101p )


と書かれている。


残る疑問は、この方法は、いつから行われるようになったのか?
「日本の印刷会社で一般的」という記述から考えて、ヨーロッパでもこの方法が行われているのかという、2点である。

カラー版 本ができるまで (岩波ジュニア新書 440)

カラー版 本ができるまで (岩波ジュニア新書 440)