一方通行路(1)
原克の「書物の図像学」を読んでいたのだが、文中に何度か引用されるベンヤミンの文章に惹かれて、つい「ちくま学芸文庫 ベンヤミン・コレクション3」所收の「一方通行路」を読み出してしまった。
「一方通行路」は、ベンヤミンの前期と後期をつなぐ、「<転位>を刻印する」作品だと、前掲書解説にある。
ベンヤミンに関し、「パサージュ論」を拾い読みした程度の知識しかない私には、その当否は判断できない。
いずれにしても、この難解なアフォリズムが書かれた1920年代に、ベンヤミンが、特権的地位を占めていた「書物」の(あるいは「書物の中に安住している『文学』のか? )終焉を見ていたことだけは、理解できる。
いまや、こうした従来の形態での本が終焉に向かいつつあることは、あらゆる証拠から見て明らかである。マラルメは、まぎれもなく伝統主義的であった自分の著作の、その結晶構造のただなかに、来るべきものの表徴を見てとっていたが「さいころの一振り」[一八九九年]においてはじめて、広告のグラフィックな字面(Schriftbild[文字イメージ])へと加工した。 (ベンヤミン・コレクション3 052p)
「Un coup de des jamais n'abolira le hasard」の「特殊な組版、7種類の活字を使って、詩化された内面の波動をそのまま視覚的に見開き11面の紙面上に定着した空前の試み」(日本大百科全書 小学館)が、「広告のグラフィックな字面」かどうかの判断もまた、私にはできない。
ダダイスム、シュルレアリスムを経て、文学が、従来の「書物」の形態を破壊しようと意志する、あるいはせざるを得なかったことは理解できる。
ベンヤミンがその状況を、的確に透視していたのは、間違いない。
真の文学活動は、文学の枠内におのが場を求めるわけにはいかない。―――文学の枠内にとどまっていることは、むしろ文学活動の不毛さの現れとして、ごく普通に見られるものだ。(中略)この働きが、現在活動しているさまざまな共同体に影響を与えるためには、書物というものがもつ、要求水準の高そうな、普遍志向のポーズよりも、一見安っぽい形式の方が適当であって、そうした形式をビラ、パンフレット、雑誌記事やポスターのかたちで、作り上げてゆくことが必要となる。この機敏な言語だけが、現在の瞬間に働きかける能力を示す。 (ベンヤミン・コレクション3 019p)
だが、ベンヤミンが「書物」の特権的位置を否定しようとする時、念頭に置いていたのは、逆説的だが、ルネサンスであったようだ。
時代は、ルネサンスとちょうど対のような関係にあるが、とりわけ、書籍印刷術が発明されたときの状況と対立している。
(ベンヤミン・コレクション3 051p)
おそらく、ベンヤミンこの認識を入り口にするなら、私も「書物」の終焉への考察に入っていけそうな予感がする。
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